みなさん、こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の新田知代です。
高校では合唱部、大学ではアカペラサークル。歌うことが好きで、社会人になってからも合唱を続けていたけど、仕事が忙しくなって、いつのまにか足が遠のいてしまった・・・
そんな50代女性の生徒さんからレッスンのご依頼をいただきました。
きっかけは社内ライブ。
社内でグループを組んで洋楽のバックコーラスを担当することになったそうです。
「マイクを使って伸び伸びと歌う方法を習いたいです。大きな声を出そうと頑張ると声が固くなり、余計に思うように声が出ず、音程も不安定になります」
このご相談をもとに、今回のレッスンを設計しました。
合唱・アカペラ経験者がマイクを苦手にする理由
声楽や合唱の経験がある方が、必ずしもマイクに強いわけではありません。むしろ逆のケースも少なくないです。
アコースティックな環境で声を響かせ歌ってきた方ほど、マイクを持っても「声量を出さなきゃ」という感覚が先行しやすくなります。
でも実際のマイクは小さな音もしっかり拾うのでマイクに乗りやすい声と乗りにくい声がある。マイクの有無で声の飛ばし方の感覚がまるで違うのです。
さらに今回のようにバックコーラスが主体の場合、全音域にわたって音量と声質を均一に保つことが求められます。
合唱では声量の大小(クレッシェンド・デクレッシェンド)で抑揚をつけることが多いですが、バックコーラスは一人で歌唱するので声量の大小はあまり使いません。
「ここは高いから出す、低いから抑える」という感覚的なコントロールとは、また別の技術が必要になるのです。
「力み」の正体は、息と腹圧の使い方にある
今回のレッスンで明らかになったのは、悩みの根っこが「息と腹圧による力み」にあるということでした。
こんな流れが起きていました。
高い音程を取ろうとする
→ 「腹圧で声を出そう」と身体が反応する
→ 腹筋&全身、特に喉まわりに余計な力が入る
→ 喉が狭くなる
→ 声が固くなり、音程も不安定になる
腹圧は声を支えるために必要なもの。
ただ、「出そう・力もう」という意識が先行すると、実際お腹だけでなく喉周りにも力を入れて固定されてしまって、支えるための力がいつのまにか締めるための力に変わることもあります。。
歌への意欲があって、ちゃんとやろうとしているからこそ起きる現象です。
音程を取ろうとすることが「リセット癖」を作る
もうひとつ気になったのが、音程の取り方の癖でした。
音と音の間に小さな「発声リセット」が入っており、ピッチが上がるにつれて喉を締めるタイミングが生まれていました。
合唱やアカペラの経験がある方は、音程への意識が高い傾向があります。それ自体はすばらしいことなのですが、その意識が強すぎると、音ごとに発声を一瞬止めてから出し直す癖がつきやすくなります。レガートに歌えているようで、実は発声がぶつ切りになっている状態です。
ピッチの正確性はもちろん大切です。
しかし音程が正しければ発声を後回しにしても良いのではない。
人によって発声・音程の優先度は変わってきますが、この方の場合はどうしても意識が「音程>発声」になってしまっていたので逆にする必要がありました。
なぜなら音程はもう取れているから。
逆に音程が取りづらい原因は音程ではなく発声だったから。
このレッスンでは、まず音程を一旦手放してポルタメント(グリッサンド)で発声し、「声の切り替わりが出ないこと」を優先しました。
音程より、声がつながっていることを先に体験してもらうアプローチです。
声量は40〜60%から始める
実際に歌声を聞いても、そもそも大きな声で歌おうとしていることが、声が出なくなる原因でした。
大きな声を出そうとして喉を締めてしまっているんです。
だからこそ、「大きく出そうとしない」ことを身体で覚えてもらうために提案したのが、声量を40〜60%に落として歌う練習です。
一人で歌唱する時に常に100%の声量で歌うことは、歌の世界で推奨されていません。
なぜなら100%の声量は常に全力で歌っている状態なので体にとっても、聞いている人にとっても心地よくないから。
最初は物足りなく感じるかもしれません。
でも、この音量帯でこそ「力まなくても声が出る感覚」が見つかります。喉が開いている状態、余計な力が抜けている状態を身体に刻むための、いわば基準点づくりです。
声量は共鳴を使えば「声が大きい」と知覚する響きを出せるようになります。「声の響きがある=声量で出している」ではない。
逆に出力を絞ることで、「余計な力を入れなくても声は出る」という大切な事実に気づけます。この感覚が土台にあってはじめて、声量を上げていく(共鳴腔を使い響きを増す)練習が意味を持ちます。
なお、この割合はあくまで今の声の状態に合わせたご提案です。
発声の土台が変わっていけば、使い方も変わります。
喉を開く練習は、段階的に
喉まわりの力みを取るために、このレッスンでは「喉を開く感覚」に少しずつ近づく流れで進めました。
首・肩まわりのストレッチで筋肉をほぐすところから始まり、難易度の異なるアプローチをいくつか試しながら、その方の身体が動きやすい入口を探していきました。
うまくいかないアプローチが出たときは迷わず切り替えます。正解のアプローチは一つではないので、今日うまくいかなかったものも、できるようになれば後から引き出しとして使えます。
最終的にため息をベースにしたアプローチで「喉が開いている状態」の感覚を掴んでもらい、そこから楽曲練習へとつなげました。
「Ga」を使う理由
ここで少し専門的な話をします。
今回レッスンでは「Ga」という破裂音を使って発声トレーニングを行っています。
ご依頼内容は上記の通り。
実際に声を聞いて見えた課題は
・地声、裏声ともに声量を息を使って大きく出す癖
・地声が大きくなって裏声が抜けてしまう癖
・地声と裏声部分の喚声点でひっくり返り(フリップ)
└+音程の不安定化
がありました。
段階的にアプローチをしましたが、最終的に一番効果があった内容として「Ga」を使ったエクササイズです。
この完全な濁音の「Ga」を正確に出すためには、口の奥の天井にある軟らかい部分(軟口蓋)を上に保つ必要があります。ここが下がると音が鼻に抜けてしまうため、自然と上げた状態を維持しなければならないからです。
軟口蓋が上がっている状態は、声を口の中でしっかり響かせるための「出口を広く開けた状態」でもあります。あくびをしたときの、喉の上側がふっと広がる感覚に近いと言えばイメージしやすいかもしれません。
喉は開く、でも破裂音なので声量を出しすぎてしまう息の量のコントロールをしやすくするためのトレーニングでした。
もうひとつ重要なのが、舌の位置です。
「Ga」の子音を出すとき、舌の奥が一瞬持ち上がって離れる動作が入ります。この動きが舌を前に引き留める役割を果たし、舌が喉の奥に落ち込むのを防いでくれます。舌が口の奥に下がると発声上様々な不具合を引き起こす原因になりやすいため回避する必要がありました。
そしてスタッカートで音程をつけた発声練習。
これは発声の「立ち上がり」を音程に関係なく均一にするためです。
スタッカートで行う事で声の出しにくい・出しやすいの区別がつきやすくなり、低音も高音も、毎回同じ入り口から声を出す感覚を体に覚え込ませます。
特に地声と特に裏声で発声の立ち上がり時間にムラがある方にはこの練習方法が効果的です。
これですべての音域でマイクに乗る声を作る土台を作りました。
生徒さんの声
レッスン後にメッセージをいただきました。
「私の声の様子を見つつ様々な教え方をしてくださったり、声の悩みの原因について理論的に説明いただいて、1時間が瞬く間に過ぎていってしまいました。が、濃い学びの時間でした。レッスンのあとのレポートだけでなくオススメ練習方法のアドバイスも添えられていて大変助かります!」
「身体の使い方を理論的に説明頂き、教えて頂いたことを実現出来れば歌うことがもっと楽しくなるだろうなと確信できる内容でした。簡単にはいかないとは思いますが、トライしていきたいと思います。ありがとうございました」
「確信できる内容」という言葉が印象的でした。
一回のレッスンではすぐに変わらなくても、方向性が見えること。
それだけで練習への向き合い方はガラっと変わると思っています。
歌への気持ちはずっと続いていた。
だからこそ、その気持ちを声に乗せる方法を一緒に探せてよかったです。
まとめ
今回のレッスンのポイントです。
- 力もうとするほど、喉は締まる
- 音程を取る意識が強すぎると、発声がぶつ切りになる
- 声量を落とすことで、脱力の感覚を掴む
- 喉を開く練習は段階的に、その人に合う入口から
- 「Ga」発声は、軟口蓋と舌の位置を同時に整える効率的な練習
- マイク乗りがよくなる声は音域で声量差がでない声
頑張ることをやめる、というのは言葉にすると簡単でも身体ではなかなか難しい。でも「頑張らない方が声は出る」という体験を一度でも持てると発声への考え方がガラっと変わるのです。
同じような悩みを抱えながらひとりで練習を続けている方がいれば、一度お声がけください。声の状態を直接確認しながら、その方に合ったアプローチを一緒に探します。
体験レッスンのご予約はこちらから。
→ newnessmusic.net/trial


