みなさん、こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の
新田知代です。
カラオケで感情が乗ってきたとき、
気づいたら声がひっくり返っていた。
音程が取れなくなっていた。
1番と2番のサビが全く同じ歌い方になった。
「もっと気持ちを込めて歌おうとしているのに、
なんだかうまくいかない」
そんなお悩みはありませんか?
日々レッスンをしていく中で
ある程度歌える方からいただく相談は
上記の内容も多いです。
実際この悩みは、
中級者以上のボイトレ経験者にこそ多いです。
基礎はできているのに、
感情が入った瞬間に発声が崩れたり
崩れるのを恐れて歌い方を変えられない。
表現方法の選択が一つしかなくなる。
実はこの現象、
解剖学的・神経学的にちゃんとした
理由があることをご存知でしたか?
今回はこの現象、つまり
「熱唱したときに起こる3つの現象」を
声の仕組みから掘り下げて解説します。
原因を知って対策を立てて
気持ちよく歌を歌ってくださいね。
ちなみにこのテーマは、
音声でもお話ししています。
文章より“声”で聞いた方がイメージしやすい方は
こちらからどうぞ。
▶︎ 音声で聞くPodcast
なぜ「感情を込める」と声が乱れるのか?
まず根本的な問いに答えておきましょう。
歌声というのは、感情がそのまま音になって
出てくるものではありません。
息を吐く・声帯を振動させる・口や喉の形を整える
といった、いくつもの筋肉の動きが連携して
生まれる「精密な運動」です。
では、歌に感情が乗る時
私たちの体に何が起きているのでしょうか。
心臓がドキドキして、
全身の筋肉がギュッと固まって、
呼吸が浅くなったり
人よっては熱量を逃したくなくて
ぎゅーーっと体を抱きしめるような
感覚になったり。
これらは感覚的に心地よいことが
あるかも知れません。
しかし体や声を自在にコントロールする
観点から見てみると
リラックスが必要な筋力まで緊張状態になり
精密な運動に向かない状態になることがある。
つまり、
感情が高まるほど
声のコントロールは難しくなるのです
これは意志の弱さでも練習不足でもなく、
人間の体の構造上、
そうなるようにできているのです。
ただ、解決方法はもあるので
これを理解した上で、
3つの「熱唱あるある」を
解剖学&ボイトレ視点から見ていきましょう。
熱唱あるある① 声量を上げるほど声がひっくり返る
何が起きているのか
声がひっくり返る現象です。
専門的には
声区の転換(レジスター・チェンジ)の破綻
と呼びます。
通常、人間の声を出す器官、声帯は
音域によって振動パターンを切り替えるために
伸縮や厚さを変えます。
- チェストボイス(胸声):
声帯ひだ全体が厚く振動する - ヘッドボイス(頭声):
声帯ひだの端(縁)だけが薄く振動する
※ファルセットとは別物です。
この切り替えを担うのが
主に甲状披裂筋(TA筋)と
輪状甲状筋(CT筋)とのバランスです。
あんまり難しい言葉が得意では人は
甲状披裂筋:低音・地声を出しやすくする
(声帯を厚くする・短縮させる )
輪状甲状筋:高音・裏声を出しやすくする
(声帯を薄くする・伸ばす)
そんな働きをする筋肉と思って下さい。

※伸縮する時に使う主たる筋肉たちです。
で、熱唱モードに入ると何が起きるか。
大きな声でがっつり歌いたくなりますね。
感情一杯声量100%で歌いたくなります。
その方が気持ちいですね。
その結果、全身に特に喉周りに
力が無意識に入っていきますね。
この喉に力が入ると何が
内側で起きているのか。
喉周りの筋肉が過緊張します。
(胸骨舌骨筋・甲状舌骨筋あたり)
この人たちが緊張で固まると
TA筋CT筋の動きが抑制されます。
→地声筋と裏声筋が固まるので
うまく切り替えられなくて
筋力が耐えられなくなった結果
パチンっとひっくり返ります。
で、裏声の筋力がゆるゆるたゆむので
カスカスの裏声になるわけです。
または喉が締まったままいくので
細くてキンキンした裏声になる。
これは感情が乗っていなくても
声をこうしたい~!と無理矢理言い聞かせている
時にも起きやすい現象です。
解決策:声量を50%に抑えて「厚みのある声質」で歌う
なるほど、声がひっくり返る原理は分かったよ。
じゃぁどうしたらひっくり返らなくなるの?
ここは感情に任せて声量ではなく
声質(倍音成分・フォルマント)で表現する
というのが、プロの歌手たちが行っている
コントロールされた熱唱の本質です。
歌唱例(点描の歌):「いつまでも いつまでも 続いて欲しいと願っている」
声量は抑えつつ、声帯の接触圧をしっかり保って「厚みのある声」にする。この状態が最も感情の乗った声に聞こえ、かつ喉への負担も少ない。
実際、声量50%というのは目安です。
もし可能であれば
話し声くらいの声量でいいくらい。
もう少し具体的にお伝えするなら
「自分の最大声量の半分、
かつ息漏れのない充実した響き」
と考えてください。
この声量で歌う事で
長時間歌っても疲弊しにくい状態になり
感情表現を乗せても崩れない声になります。
熱唱あるある② 感情を込めすぎると1番も2番も同じ歌い方になる
歌い方のバリエーションがなくて
いつも同じ歌い方になってしまうんです。
というお悩みもよく伺います。
なぜそれが起きるのかお伝えしていきます。
何が起きているのか
一旦「歌っている時に何を考えているのか」という
思考は横において事象として捉えると
運動の自動化(オートマチック化)が
起きていることが原因です。
人間の脳は、繰り返し行う動作を
どんどん省エネ化しようとします。
その方が効率よく動けるようになるからですね。
喉が渇いて水を飲む時に
「今から嚥下する」と強く意識しなくても
口に水を含んだらそのまま飲み込むように
考えなくても動作をできるように
脳が自動化しているんです。
歌も同様で、
同じ感情タグ(「愛しい」「悲しい」)が
付いた場面では、
同じ筋肉パターン・声道形状を
使い回そうとします。
この感情はこの声を使う、
と脳が声をラベリングしているんです。
そうすると脳は
「愛しい=この声」と一括処理してしまい、
効率的に歌うため歌詞のシチュエーションの違いを
声に反映させる余白をなくします。
つまり一つの声しか使わないことを
脳が無意識にルール化してしまう。
さらに厄介なことに
感情が乗っているときほど
客観的なモニタリング能力が低下すること。
「よく歌えてる!」という主観的な充実感と、
「聞いている人にどう聞こえているか」
という客観的な情報が乖離していくこともあり
同じ歌い方と気づいているのに
修正できなくなる、
修正の仕方が分からなくなるのです。
解決策:歌詞ではなく「場面」を分析し、声道の使い方を変える
よくレッスンで行う内容としては
まずは歌詞の内容を読み解くこと。
そして自分の言葉で説明できるようにする。
自分だったらどう表現したいのかを
歌詞の言語的な意味だけでなく
シチュエーション・時間軸・話者の内面状態
で分解して表現づけていきます。
歌唱例(逢いたくていま):
1番:「今 逢いたい あなたに 伝えたいことが たくさんある」→ 積極的・前のめり。軟口蓋を高く保ち、明るめの声質で。
2番:「今 逢いたい あなたに 聞いて欲しいこと いっぱいある」→ 少し内省的・受け身。咽頭腔を少し広げ、ダークな声質へ。
声道の変化を付けて声色の変化を促したり
歌詞の内容に合わせて使用する
歌唱テクニックに変化を持たせます。
感情表現に置いては声質の使い分けが分かりやすく
少しの変化で聴衆へ伝わる表現が変わります。
そこに音楽的なアプローチも加えることで
表現の幅がぐっと広がります。
少し難しいのですが
「感情の違い」を身体で表現するには、
まず楽曲を
演者の視点ではなく作家・演出家の視点
で分析する習慣があるとやりやすいです。
熱唱あるある③ 気づいたらリズムも音程も崩れている
何が起きているのか
これは①と②が合体した最終形態です。
①声量を上げるほど声がひっくり返る
②感情を込めすぎて1番も2番も同じ歌い方になる
一言で言うと、
一気にたくさんのことをやろうとして
脳が処理しきれずパンクしている状態です。
キャパオーバーです。
熱唱モードに入った時に、
同時にたくさんのことをやろうとしていませんか?
たとえば
感情MAXで大きな声量で表現したい
歌詞なんだっけ?
音程はこんな感じだったよね
歌詞の表現でここはもっと切なそうに
次のAメロのってどんなフレーズだっけ
最後ビブラートかけたい!
裏声のところカッコよく決めたい!
こんな感じでいっぱいっぱい
考えていませんか?
この意識を1フレーズの中で
一気に考えてやったら・・・
分かりますよね?
情報量、多すぎですよね。
これが一気に押し寄せてくると
・音程
・リズム
の優先度が脳内で下がります。
声の出し方、歌い方に意識が向くので
音程とリズムは無意識の歌唱に
丸投げされる状態です。
丸投げされた無意識の歌唱は
リズムを正確に刻むことも
音程を正確に声でコントロールすることは
とても難しいです。
なぜならリズムを取ること
そして音程を正確にコントロールする事は
人間の本能的な声の使い方ではないから。
無意識という本能で歌うには
相当な練度が必要になってくるわけです。
加えて、熱唱時に喉周辺に余計な力が入ると
喉仏(喉頭)の位置の調節が難しくなる
ことがあります。
喉頭の高さは正しい音程の声を
出す助けになります。
そして喉を開く(声道を広く保つ)ための
助けにもなります。
高音から低音に降りた時の音程が不安定
高音中の音程の変化があまりない
などの現象が起きた場合は
音程が正確に出せないというより
発声に問題がある状態になる。
ブレイク
(オケだけになってボーカルが一瞬止まる箇所)で
歌い出しのタイミングを見失うのも同じ理由。
脳がいっぱいいっぱいの状態では、
リズムカウントもしていないので
「ここで入る!」という瞬間の判断が
遅れてしまうのです。
熱唱に全振りするとこんな事が起きるのです。
解決策:感情にコントロールされる歌から、感情をコントロールする歌へ
実際、これらの現象って起きると嫌だし
歌っている時にストレスです。
じゃぁどうしたらいいのか。
それは単純明快で
感情にコントロールされるのではなく
コントロールした感情で歌う
状態です。
実際プロの歌手は声をダメにするほど
全身全力で歌っていません。
全身全力で歌っていますが
それは体と声をコントロールし、
破綻せず歌う術を身につけているのです。
これは精神論ではなく、
脳の処理に余裕を作るんだよ、
という話です。
脳がパンクする原因は、
「声量・声質のコントロール」
「音程・リズムの維持」
「感情表現の判断」を
全部同時にやろうとしているから。
ならば、
歌っている最中に考えなくていいことを
事前に減らしてしまえばいい。
声量と声質のコントロールは、
練習を通じて体に覚えさせて
「考えなくてもできる状態」にしておく。
→これがボイストレーニングをする
一番の目的です。
基本の発声と、表現に欲しい声を
ここで掴みます。
逆に欲しい声が分からないと
迷子になります。
シーンごとの歌い方の違いは、
歌う前に「2番のサビはこう歌う」
と歌い方を決めておいて、
歌いながら考えないようにする。
→ボーカルレッスンで習う表現部分です。
ここも大切で、決めておかないと
使う声の種類が決められません。
ただ使いたい声だけが合っても
ボイストレーニングで身につけていないと
破綻した表現になります。
準備でできることを事前に済ませておくと、
歌っている最中の脳に余裕が生まれます。
その余裕が感情が乗ってきたときでも
リズムと音程を崩さない
「安定した熱唱」につながっていくのです。
まとめ:コントロールされた熱唱こそが、人を惹きつける
| 現象 | 解剖学的原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 声がひっくり返る | 余計な力で声帯の切り替えが崩れる | 声量50%で「声質」で感情を表現 |
| 1番も2番も同じ歌い方 | 同じ感情=同じ体の動きで処理される | シーンを分析して声道の使い方を変える |
| リズム・音程が崩れる | 脳がパンク+喉仏が上がって声質が変わる | ①②を体に覚えさせ、脳に余裕を作る |
「感情をコントロールする」と聞くと
「感情を抑えて冷たく歌う」ような
イメージを持つ人もいるかもしれません。
でも実際はこれまでお伝えしたように
まったく逆です。
感情を消すのではなく、
感情を声に乗せるための技術を体に入れておく
ということ。
料理に例えるなら、
どんなに素晴らしい食材(感情)があっても、
包丁の使い方や火加減(声の技術)が
身についていなければ、
おいしい料理(伝わる歌)にはなりません。
逆に技術が体に馴染んでいれば、
素材の良さを最大限に引き出せる。
聴いている人を本当に惹きつけるのは、
「感情が溢れて制御できなくなっている歌」
ではなく、
「感情がちゃんとコントロールされた上で、
丁寧に届けられている歌」です。
これはプロの歌声を思い浮かべてもらえれば
納得できると思います。
どんなに激しい曲でも、
うまい人は「余裕」を感じさせます。
あの余裕こそが、
今回お伝えしてきたコントロールの正体です。
思い切り解放する歌も、
じっくり聴かせる歌も。
どちらも意図的に選択できる
そんな歌い手を目指して、
一緒に練習していきましょう。
どうしたらいいか分からない、そんな時は
あなたの「熱唱あるある」、
一人で抱えていませんか?
今回お伝えした3つの現象。
「あ、これ私のことだ」と
思った方も多いのではないでしょうか。
原因が分かっていても、
「じゃあ実際に自分はどう直せばいいのか」
というのは、文章や動画だけでは
見えにくい部分です。
YouTubeやTikTokで情報を探しても、
自分の声に何が起きているかを
みてくれるわけではない。
やってみても、できているかどうか分からない。 そもそもその情報が、
自分の症状に合っているかも分からない。
ボイトレ情報を探して、見つけて、やってみて、
よく分からなくて。
「ボイトレって意味があるの?」と思ったら、
プロのボイストレーナーのレッスンを
受けてください。
あなたの声で何が起きているのか、
原因をひも解いて改善の道筋をお伝えします。
自分一人では何ヶ月もかかっていたことが
レッスン一回で腑に落ちることも
全然珍しくありません。
NEWNESS MUSICでは、
クラシックとポップス双方の発声理論をベースに、
解剖学・科学的視点も交えながら
あなたの声の現在地を正直にお伝えします。
現役VTuberや音楽事務所所属タレント、
プロの声のメンテナンスも担当している私と
一緒に、「感情をコントロールした熱唱」 を、
あなたの武器にしていきましょう。
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