こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の新田知代です。
歌を習っていると
「もっと鼻に響かせて」
「鼻に声を通すイメージで」
と先生からレッスンで言われて、
やってみたらその場では声の抜けはいいんだけど
自分で練習してみると感覚が分からなくなる。
むしろ声がこもるように感じる。
そんな経験はありませんか?
きっと教わったことを
ちゃんと理解していない自分が悪いんだ・・・
もっと練習しよう・・・
もっと鼻にかかるように鼻声を意識しよう!
となってしまう前に。
実はこの現象は認識の誤りや練習不足ではなく、
「鼻腔共鳴」という言葉の意味を取り違えて
練習している可能性が高いんです。
今回は、声楽やボイトレの現場で混乱を生みやすい
「鼻腔共鳴」について、体の仕組みから解きほぐしていきます。
ちなみにこのテーマは、
音声でもお話ししています。
文章より“声”で聞いた方がイメージしやすい方は
こちらからどうぞ。
▶︎ 音声で聞くPodcast(リンクはのちほど)
まずは軟口蓋のおさらい——踏切はグラデーションで動く
口の奥の天井、舌で触ると柔らかい部分を
「軟口蓋(なんこうがい)」といいます。
この軟口蓋は、
声の通り道を「口方面」と「鼻方面」に
振り分ける踏切のような役割をしています。
ここで大事なポイントがひとつ。
この踏切、「完全に閉じる」か「完全に開く」かの
二択ではありません。
実際には、半分だけ、3割だけ、ほんの少しだけ……と、
グラデーションで動いています。
水道の蛇口をイメージすると分かりやすいです。
全開とゼロの間に無数の段階がありますよね。
軟口蓋も同じで、「鼻にどれだけ声を流すか」は
連続的に調整できるんです。
声にとってこの調整はグラデーションができて
より表現力に磨きをかけることができるのです。
そしてこの「どれだけ」が、
良い鼻腔共鳴と悪い鼻声の分かれ目になります。
「鼻に声を通す」とき、体の中で起きていること
私が過去に受けてきた声楽では
「口の奥を開けて、鼻に声を通しなさい」と
教わることがありました。
当時は体の仕組みや声がどこに響くのか
知識も経験もなかったので、
先生のデモンストレーションを聞いて真似して
先生にできているかどうかジャッジしていただいて
少しずつ感覚を掴んでいきました。
ただ、声楽以外の世界はどうなんだろう?
と間口を広げて声の勉強をし始めた時に
この矛盾に気が付きました。
「口の奥を開ける=軟口蓋を上げる」
「鼻に通す=鼻への通路を開ける」
って仕組み的に矛盾してない??
単純に体の仕組みだけを見ていくならその通り。
しかし物事は単純な仕組みが重なり合って
複合的に成り立っているもの。
正しくできているときの体の中は
こうなっていると考えられています。
- 軟口蓋が高く上がり、口の奥に縦の空間がしっかり確保される
- 声の響きのメインは、この広くなった口の空間で作られる
- その上で、鼻方面にごくわずかに響きが流れる。
あるいは響きの振動が鼻や顔に伝わって
倍音の艶が加わったように感じられる。
つまり主役は、喉から口まで続く管全体の共鳴。
鼻は、そこに条件付きで加わる補助的な存在です。
料理で言えば、喉から口までの管で作る響きがメインの出汁で、
鼻の響き感は最後にひとたらしする香りづけの油。
香りづけだけでスープは作れません。
「鼻に声を通す」は「鼻だけで響かせる」という意味ではなく、
「管全体の響きが完成した上で、
鼻にも艶が乗ったように感じられる」状態を指しているわけです。
「鼻に響いている感覚」の正体は、振動かもしれない
ここで、もう一歩先に進んでいる人に知ってほしい話をひとつ。
実は音声科学の世界では、
「良い声のとき、鼻に本当に声が流れているのか」は
まだ決着がついていないそうです。
クラシック歌手の発声を計測した研究では
良い響きで歌っているとき鼻への通路はほぼ閉じていた
という報告が複数あるらしいのです。
(一方で、母音や歌手によっては
わずかに開いていたという報告もあるそうです)
では、歌手が確かに感じている
「鼻に響いている感覚」は何なのでしょう?
そこで有力な説明は振動感覚です。
口の奥でしっかり共鳴した声の振動が
骨や組織を伝わって鼻や顔のあたりに
「響いている感じ」として届く。
つまり、鼻で音が鳴っているのではなく、
良い共鳴の”結果”が顔に伝わってきている
という考え方です。
実際歌っていると骨を伝って耳に響いたり
鼻や胸を触ると振動が伝わってきますよね。
チェストボイスを確認する時に
胸を触るのと同じです。
これが分かると、大事な実践上の結論が見えてきます。
「鼻に響いている感覚」は
良い発声の結果であって、原因ではない。
だから感覚を頼りに鼻へ声を送り込もうとすると、
軟口蓋を下げて本当に鼻に流してしまい、
声の方向性が分からなくなる、あっちこっちに飛ぶ。
という逆転現象が起きるんです。
冒頭の「言われた通りにやったら声がこもった」の正体は、
多くの場合これです。
良い鼻腔共鳴と悪い鼻声、何が違うのか
さて、混同されやすい3つの状態を並べて整理してみましょう。
| 軟口蓋 | 口の共鳴 | 鼻への流れ | 聴こえ方 | |
|---|---|---|---|---|
| 良い鼻腔共鳴 | 高く上がっている | しっかり確保 | ほぼ閉じ〜ごくわずか(響きの振動が顔に伝わる) | 艶があり前に飛ぶ |
| 悪い鼻声 | 落ちている | 潰れている | 大量に流れ込む | こもって通らない |
| 風邪の鼻声 | (無関係) | 機能している | 通行止め | 鼻の響きがなく「マ行・ナ行」が不明瞭 |
注目していただきたいのは、
良い鼻腔共鳴と悪い鼻声の違いが
「鼻に流れる量」だけではないこと。
口の共鳴が確保されているかどうかが決定的な分かれ目です。
軟口蓋の高さはこういう部分に影響があるので
操作するためにも早めに感覚を掴みたい場所だったりします。
自分は今どっちの状態?セルフチェック法
鼻をつまんだり離したりしながら
「あーーーーーーー」と声を出してみましょう。
鼻を離している時はクリアな声、
鼻をつまんでいるタイミングで鼻声になるようであれば
それは改善の余地がある鼻声です。
鼻をつまんでもつままなくても声が変わらないのであれば
OKのパターンです。
また、耳がある程度育っている方であれば
録音でのチェックもおすすめです。
「鼻に響かせる練習」をした前後で録音を聴き比べて
響きが増えた感覚があるのに
録音では声がこもって聴こえるなら
それは鼻腔共鳴ではなく悪い鼻声に向かっているサイン。
体感と実際の音は意外なほどズレるので
自分の耳を育てるためにも
録音・録画での確認を習慣にしてほしいところです。
「鼻に当てて」が逆効果になる人もいる
最後に大事な注意点を一つお伝えいたします。
「鼻に声を当てて」という指示は、
軟口蓋が硬く閉じがちで響きの少ない人には
有効に働くことが多いです。
それは鼻方面への意識が、固まりがちな口の奥を
ほどよく緩めてくれるためと考えらるからです。
また、声帯閉鎖を優先したり
息の量のコントロールをする際にnの発音を
用いることがあるので必ずしも悪ではありません。
(そもそも子音に「n」「ng」がありますしね)
しかし、もともと軟口蓋が下がりがちで
悪い鼻声の傾向がある人が同じ指示を受けると、
ただでさえ開きすぎている踏切が
さらに開き、声はますます鼻に流れ込む可能性があります。
同じ指示が、人によって正反対の結果を生み得るんです。
だからこそ、練習法を探す前に
「自分の軟口蓋は今どっちに偏っているのか」
という現状把握が先だったりします。
要は自分の癖を知る、ということ。
専門的な話をするとアトラクターステートと言って、
筋力は普段自分が心地よいと感じる使い方に慣れています。
軟口蓋の位置のアトラクターステートが普段どうなのか把握し
自分が歌唱する・話す際にどの位置にセッティングするといいのか
判断するためにも自分を理解しておくことがおすすめです。
直したいなという方は、
まず声を口側に確保する練習から始めるのが近道です
(具体的なチェック方法と練習法は
こちらの記事で詳しく解説しています)
「言われた通りに練習しているのに、なかなか良くならない」
——その原因は練習量ではなく、
自分の声の現在地が分からないまま
練習していることかもしれません。
NEWNESS MUSICでは、
クラシック声楽とポップスの両方の発声法をベースに、
声の仕組みに基づいた科学的なアプローチで
レッスンを行っています。
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