みなさん、こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の新田知代です。
40代の保育士として日々お仕事をされながら、2ヶ月に1度のペースで声枯れを繰り返しているというAさんのご相談を受けました。
声が出なくなる期間が1週間ほどに及ぶことがすでに3回。
声をよく使う職場でのこと、さぞ困られただろうと思います。
そのうえで、「家族とカラオケで気持ちよく歌いたい」という目標もお持ちで、初めての個人ボイトレとして体験レッスンにお越しくださいました。
今回のレッスン事例をご紹介します。
声枯れの背景を探る
声が枯れやすい、というのは結果として現れた症状であることが多いです。
声帯やその周辺の使い方に何らかのパターンがある場合、特定の状況下でそれが表れやすくなります。
ご依頼文を読む限りAさんの場合は息漏れのある発声が日常のクセになっている可能性がありました。
息漏れのある発声とは、声帯が完全に閉じ切っていない状態のことです。コソコソ話をするときに「スー」と混じる白い息の音。あの感触がいつも少し混ざっているような状態です。
この状態が続くと声帯への負荷がじわじわと蓄積していきます。
他にも嗄れの原因になるものはあるのですが、「声枯れ」の改善策として発声練習を考えるときはこの観点から見ていくことが多いです。
発声確認でわかったこと:締まり方のクセ

最初の発声確認でわかったのは、Aさんの喉の締まり方のパターンでした。
高音になると締まるという方は多いのですが、Aさんの場合は低音の段階ですでに締まりやすい傾向が見られました。
低音は地声、つまり話し声で使う音域のあたり。
長時間の会話で声がかれやすくなったり、高音で問題が出やすいのはこの地声の段階で喉が締まる癖があるのが一つの原因で、地声の段階から咽頭を広く使う(喉を開く)感覚を育てることが先決でした。
咽頭を「広く使う」というのは、喉の奥にある空間を狭めないでいる、というイメージが近いかもしれません。実際には口の奥、軟口蓋の後ろあたりに空間を残しておく感覚です。
特にAさんはカラオケで「高めの男性歌手の歌は歌いやすい」とおっしゃっていました。
これは、そのキーが自分の声の得意な音域に合っているからではなく、ある程度の音域の幅がある曲で喉をうまく調整できているケースかもしれません。
ただし個人差があるため、これはあくまで一つの見方です。
練習① 咽頭を広げながら声帯を閉じる
最初に行ったのは、頬をパンパンに膨らませた状態で「Buuuuu」と口の中に響かせる発声練習です。
唇は閉じたまま。(少し息が出るのはOK)
唇の内側にビリビリとした振動が来るように声を出します。
注意したいのは、音が鼻に抜けてしまうことです。
唇の内側ではなく鼻にビリビリが来てしまう場合、咽頭が狭まっていることが多く、その影響で鼻腔に音が逃げやすくなっています。
Aさんの場合も、最初はここで鼻への抜けが出やすい傾向がありました。
声が「Bunnnnnnnn(ンー)になってしまう状態です。
この練習のポイントは「咽頭を広く保ちながら、声帯を閉じる」という2つの条件を同時に満たすことです。
咽頭の広さと声帯の閉鎖は、どちらか一方だけでは声は安定しません。両方を同時に。ここが声の土台になります。
続けて「Buuu→A」の発音を使い、舌の位置を意識する練習も行いました。
舌が口の奥に引っ込むと、咽頭の空間が物理的に狭くなります。
高音で舌が力んで奥に引っ張られやすい方は特に、前方向に軽く置いておくイメージが助けになることがあります。
ただしこれはAさんの発声の傾向をもとにした調整ですので、ご自身の感覚と照らし合わせながら試していただくことが大切です。
練習② 「Bub」で音程を移動させる
「Bu」と「Ba」の中間の音で、短くスタッカート気味に発声する練習を行いました。
喉は広く、声帯を閉じたまま音程を変えていく練習です。
地声の低音域から始めて、中音・高音域へ広げていきます。
閉鎖ができているかどうかの判断基準は、息漏れがないかどうか。
「スー」という白い息の音が混じっていない。その状態が、声帯が閉じられているサインになります。
Aさんの今の目的は「高音で喉を無理なく使えるようにすること」ですので、この段階では裏声ではなく地声での練習を中心に考えました。目的が変われば、練習の設計も変わります。
練習③ 歌唱練習発声練習を経て、実際の歌の練習に入りました。
高音部分で声帯閉鎖を保つためのアプローチとして、まず「AE」(「あ」「え」の中音の音。「え」の下で「あ」を出すイメージ)を短く裏声で出す練習から始めました。
ここで気をつけることはひとつ。
息漏れをなくすことだけです。
声質の自由度や表現の幅は、閉鎖が無意識にできるようになってから広げていけばいい。高音で舌が奥に引っ込まないよう前方向に意識しながら、声帯閉鎖を優先する。
欲しい声・パフォーマンスより先に筋トレ感覚で声のイメージを掴む。そこから声を使いこなす先のイメージへ繋げていきます。
Nさんの変化:感覚センサーが働き始めた
今回はオンラインレッスンで、接続のトラブルにより映像なし・音声のみでのやりとりになりました。
映像がなくても声そのものが多くのことを教えてくれます。
どこが締まっているか、息の状態はどうか。そうした情報は、声に込められているのです。
(勿論表情筋や唇・顎・喉頭や体の力みは映像であった方が分かりやすいですし、何より本人がチェックしやすいです)
このレッスンの中でAさんは「歌っていてさっきと何か違う」という微細な気づきへの意識が少しずつ変化していきました。
レッスンの中で「かつて劇団に所属して指導を受けていた時、自分がその指示通りにできているかどうかわからなかった」とおっしゃっていました。これは感覚センサーが働いていなかった状態。
それが今回のレッスンで「今できた」「これ違うな」が分かるようになっていったのです。
生徒さんの声
レッスン後にメッセージをいただきました。
「普段の仕事での発声でも意識していきたい」という言葉が印象に残りました。
カラオケが入口だったはずなのに、声が日常使いや仕事にまで応用できそうな感じがあったようです。
一回のレッスンで声はすぐには変わりません。
でも、自分の発声のクセを知る視点が生まれるとその後の練習への向き合い方がまるで違ってきます。
そのきっかけを渡せたなら、このレッスンをやってよかったと思います。
おわりに
声枯れは、喉だけの問題ではないことがほとんどです。
発声の習慣、息の使い方、咽頭の広さ。
ずっと自分の癖で使っていたその積み重なったパターンがあります。それを少しずつ知って改善していくプロセスがボイストレーニングです。
Aさんの出発点は、「咽頭を広げたまま声帯を閉じる」という土台を作ることでした。一番基礎だけれど一番感覚的に掴みにくく、分かりにくい部分でもあります。
この土台の上にカラオケの高得点も仕事での声の安定も乗せていけます。
声の変化は、ゆっくりですが確実に積み重なります。
発声の癖や声の使い方について気になることがあれば、体験レッスンで一度確認してみませんか。
声を聞きながら、あなたのパターンを一緒に見ていきます。


