こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の新田知代です。
ボイストレーニング中に「お腹から声を出して」と言われて
お腹にぐっと力を入れたら、むしろ声が苦しくなった、
そんな経験はありませんか。
私の元に来る生徒さんにはよくいらっしゃいます。
「喉を開けて」
「力を抜いて」
「頭のてっぺんから声を出して」
ボイトレに通っていれば必ず出会うこれらの指示を
忠実に守っているはずなのに
なぜかうまくならない。
理想通りの声にならない。
それはなぜですか?と質問いただくことも多いです。
答えは一つ。
これらの感覚は字義通りに実行するための言葉ではないからです。
じゃぁ、これまで聞いた言葉は嘘だったんだ
あの動画は間違っているんだ
この先生の言い方は違うんだ
・・・というわけでもないのが
これらの言葉の怖い部分。
実はこれらは身体を望ましい状態へ
導くための「誘導の言葉」なんです。
感覚的に「喉を開く」はある(声帯は締める??)
「力を抜く」もある(どこの力を抜くの??)
「頭のてっぺんから声を出して」(どこよ???)
今回はこれらのようなボイストレーニング中に
よく出てくる言葉たちを正面から扱い、
定番指示4つを「身体で実際に何が起きてほしいのか」
という言葉に翻訳していきます。
指示の意図がわかれば、レッスンの吸収率は大きく変わるので
ぜひ最後まで読んで実践に用いてみてくださいね。
ちなみにこのテーマは、
音声でもお話ししています。
文章より“声”で聞いた方がイメージしやすい方は
こちらからどうぞ。
▶︎ 音声で聞くPodcast(リンクはのちほど)
「お腹から声を出して」の翻訳
よく聞きますね、「腹から声を出せ」。
そもそも声量が小さい人に対して
大きな声を要求する時に使われるイメージがあります。
単純に大きな声を出すイメージだけなら
その受け取り方で問題はないのですが
ボイストレーニングを長年続けて行った時に
この声は「腹式呼吸+お腹から声を出す」という
息と音量に頼った歌い方になりやすいです。
特に合唱出身者の方に多い印象があります。
沢山息を使って深い声で大きな声で歌う。
息漏れが多くなり、長いフレーズで息を使いすぎたり
声の支えが弱々しくなってしまう方もいます。
この場合、まず前提の確認からして欲しいのです。
声そのものは喉にある声帯が振動して生まれます。
そしてお腹に発声器官はないので、
物理的にお腹から声が出ることはありません。
だからお腹をベコベコ膨らませたり凹ませたりする
呼吸は歌において必要ありません。
(エクササイズとして取り入れる事もありますが、
歌唱時に息を吸ってお腹を膨らませるなんて
必要ありません)
ではこの指示は何を求めているのか。
翻訳すると
「吐く息の勢いを、お腹まわりの筋肉でコントロールして」
となります。
息を吸うとき、横隔膜という筋肉が下がって肺に空気が入ります。
吐くときは横隔膜がゆるんで戻っていくのですが、
これを成り行きまかせにすると、息は一気に出てしまいます。
そこで、
お腹まわりの筋肉と横隔膜が引っ張り合うようにして、
戻るスピードにブレーキをかける。
重い扉が「バタン」と閉まらないよう、
そっと手を添えて閉めるような感覚です。
この「ブレーキの効いた吐き方」が、
いわゆる「支え」の正体だと考えられています。
(腹圧とも言われたりします)
ありがちな誤解が「お腹に力を込めて固める」こと。
お腹を固めすぎると息の圧力が過剰になり、
喉がそれを受け止めようとして締まります。
冒頭の「力を入れたら声が詰まった」は、まさにこのルートです。
求められているのは固めることではなく、ゆっくり使うこと。
長く細く「スーー」と息を吐いたとき、
お腹が少しずつ薄くなっていくあの動きが原型です。
(イタリアベルカント式の呼吸だと下腹部に力を入れて
肋骨を開きっぱなしにする呼吸にもなります)
簡単なチェックとして、片手をみぞおちの少し下に当てて
「スッ、スッ、スッ」と短く息を切ってみてください。
手のひらの下が小さく弾むように動けば、
息とお腹の連動は生きています。
この連動を保ったまま声に変えていくのが、
「お腹から」の実際の中身です。
「喉を開けて」の翻訳
身体の仕組みとして呼吸をする時、喉はもともと開いています。
そして息を止める時、喉は締まります。
これが歌唱時にどんな意味で使われているかというと、
この指示の翻訳は
「喉仏を上げすぎず、喉の奥の空間をつぶさないで」
です。
高い音や強い声を出そうとすると、
多くの人は喉仏(喉頭)が大きく上がり、
舌の根元が硬くなって、喉の奥の空間が狭くなります。
空間が狭くなると音は細く、苦しそうな響きになる。
実際声が出しにくくなるので、スムーズな歌唱のために
喉を開いた状態をキープする必要が出てきます。
その際に使われるのがこの「喉を開けて」という表現です。
体感の入り口としてよく使われるのは「あくびの出はじめ」。
あくびを噛み殺す瞬間、喉の奥がひんやり広がる感じがしますが、あの状態に近いものが「開いた喉」のイメージです。
ただし両論あります。
あくびの状態を積極的に推奨する考え方がある一方で
この状態は喉頭が低い位置になり、舌も口の奥に下がっています。
これは高音に必要な喉頭の高さを満たしていなかったり、
声が深くなってしまうので特にポップス歌唱では
不自然な声になるという指摘もあります。
クラシック的な発声とポップスの発声では
「ちょうどいい開き具合」が異なるため、
「開けて」と言われたら今の自分が狭めすぎている方向を
少し戻すくらいの解釈が安全です。
喉が締まる、という表現自体、
結構抽象的でもあるのでこの感覚については
実際のボイストレーニングで体感で学んでいただくことを
おすすめします。
喉頭蓋がしまるのか、仮声帯がしまるのかで
全然違いますからね・・・
「力を抜いて」の翻訳
この指示ほど「どこの?????」となる言葉はないですよね。
よく指摘される時は胴体への力みでしょうか。
よく気合を入れて両手をぎゅっと握って
声を出してしまう方はその力が不要だったり。
腹式呼吸を意識するあまり、
お腹周りにガチガチに力を入れている結果、
喉に筋が浮かび出る力が不要だったり。
口をしっかり開けなきゃ、と
下顎が外れそうなほど口をあける力が不要だったり。
これらすべてが該当し、
発声が必要な部分の力は抜かない。
この言葉の翻訳は
「発声に不要な場所の力だけ抜いて」
です。
この不要な場所の力を抜いて、というのが
また感覚的に難しい部分ではあるのですが・・・
特にミックスボイスの練習では、
この「不要な力」が裏声と地声の切り替えを
邪魔しているケースが多く見られます。
(ミックスボイスについてはこちらで解説)。
「力を抜いて」と言われて分からない時は
「どこの力ですか?」と先生に聞いてみましょう。
案外講師側は「これが出来て当たり前」と
思っている節があるので質問してください。
それが生徒さんも講師も成長するポイントになります。
私も生徒さんによく助けられています。
「頭のてっぺんから声を出して」の翻訳
高音を出す時によく使われる抽象的な言葉です。
もちろん、頭から音は出ません。
しかしこの指示が長く使われ続けているのは、
高い音がうまく出ているとき
頭の上のほうに振動や響きを感じる人が実際に多いからです。
骨を伝わる振動の感じ方が
音域によって変わるためではないかと考えられていますが、
感じる場所には個人差があり、
感覚の位置と実際の音響現象が
必ずしも一致しないという見方もあります。
つまりこの指示の翻訳は
「結果としてそういう感覚が生まれる発声を探して」。
喉で押し上げるのではなく
響きの「感じる場所」を上へ引っ越しさせるイメージを持つと
喉頭への余計な力みが減りやすい、という意味です。
「響かせて」という指示も、多くの場合これと同じ仲間です。
注意したいのは、響きを感じる場所の「正解の地図」は
存在しない、ということ。
正確には人によって感じ方が異なり地図が異なります。
先生が頭頂部に感じる響きを、
あなたは眉間や上の歯の裏に感じるかもしれません。
場所そのものより
「楽に出ているときの自分の感覚」を覚えておくこと
のほうがずっと重要で効率的です。
振動感覚と響きの関係については
鼻腔共鳴の記事で詳しく扱っています。
「体感としての響き」と「実際に録音される音」のズレも
含めて解説しているので、
本記事とセットで読むと理解が進みます。
まとめ:指示は「正解の説明」ではなく「変化のきっかけ」
抽象的になりやすい指示語たちを
具体的にお伝えしてみましたが、
頭のモヤは晴れましたか?
4つの指示に共通するのは、どれも
身体の状態を変えるためのスイッチとして機能する言葉
たちです。
字義通りに実行しようとすると迷子になりますが、
「この言葉で、身体のどこに何が起きてほしいのか」
という翻訳ができれば、
同じレッスンから受け取れるものが何倍にもなります。
「専門用語だからこんなものでしょ」と
体感を掴めないままなんとなーく受け取ってしまうと
講師は「いやだから伝えてるでしょ」となるし、
生徒も「なんとなくこんな感じ?」と曖昧で
自分で練習した時にレッスンではうまくいったのに
一人ではレッスンの時のようにうまく歌えない状態に
なってしまいます。
指示にピンとこなかったとき、
悪いのはあなたの理解力ではありません。
誘導の言葉が、たまたまあなたの身体に合わなかっただけ。
別の入り口は必ずあります。
この記事を翻訳辞典としてブックマークしておいて、
レッスンで迷ったときに開いてもらえたら嬉しいです。
「言われた通りにやっているのに、うまくいかない」
「なんで先生から良いって言われるのか分からない」
その停滞は、練習量ではなく、
指示の受け取り方のズレが原因かもしれません。
NEWNESS MUSICのレッスンでは、
クラシック声楽とポップス両方の発声法を土台に、
感覚的な指導言語を一人ひとりの身体に合う形へ翻訳しながら、
科学的なアプローチで声を育てていきます。
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