こんにちは。
ボイストレーナー・話し方講師の
新田知代です。
つい先日、生徒さんからこんな質問を
いただきました。

低音は褒められるけれど、高音も同じくらい魅力的になりますか?
人には、魅力的な声を出せる適正音域が決まっているのでしょうか?
ボイストレーニングをしていると、
「低音はいいと言われるけれど、
高音はどうなんだろう」
「どれだけ練習しても、
向き・不向きはあるのかな」
と疑問に思う方はとても多いです。
特に”魅力的な声を出せる適正音域”の
話はボイトレをうけたことがある人、
興味のある人は気になる点ですよね。
この記事では、
- 魅力的な声とは何か
- 適正音域は本当に決まっているのか
- 訓練でどこまで可能なのか
この3点を、
音響的な視点と実体験を交えてお話しします。
ちなみにこのテーマは、音声でもお話ししています。
文章より“声”で聞いた方がイメージしやすい方は、こちらからどうぞ。
▶︎ 音声で聞くPodcast
▶︎ 音声で聞くstand.FM
「魅力的な声」という言葉の正体
まず最初に整理したいのが、
「魅力的」という言葉の曖昧さ。
実はこの言葉、
主に2つの意味で使われています。
① 音響学的に見て魅力的な声
知識として知っておくとよいのが
魅力的な声がなぜ耳に心地よく聞こえるのか
という点です。
まずは主観的ではなく客観的な面から。
事実ベースで考える時に
音響学の面から考えると理解が早いのですが
そもそも音響学とは何かというと
「声がなぜ響くのか」
「なぜ通って聞こえるのか」を
音の成分から考える学問です。
つまり
声を「うまい・下手」といった感覚ではなく、
周波数や倍音といった音の成分から
どのような特徴があるのか捉えます。
そして大切なのが「倍音」。
倍音とは、声を出したときに主となる音(基音)
に重なって含まれる、細かな音の成分のこと。
この倍音が多く含まれていると、
声は響きが豊かで、
立体的に聞こえやすくなります。
つまりわかりやすく
「いい声」「魅力的な声」になります。
後述しますが
自分の好みに関わらず
物理的・技術的に説明できる魅力的な声は
この音がたくさん含まれている声を
指すことが多いです。
② 感覚的に魅力的な声
客観的な事実ベースはOK。
でも私も含めて人は
「合理的」より「感情」を優先することもある。
ふんだんに倍音が含まれていても
魅力的に感じないことは多々あるのです。
そんな時の魅力的な声とは
別の視点からも見てみるのが大事。
・好き
・心地いい
・惹かれる
自分がその声に対してどう「感じるか」。
フィーリングです。
こちらは完全に聞き手の好みによる評価ですが
知覚心理学的に考えるとこれまた納得です。
これの魅力的な声というものは
声そのものの美しさよりも、
脳がどう解釈したかが影響するそうです。
・リラックスして聴いていられる声
・次の予想がしやすい声
・感情と一致した声
・自分(聴衆)の経験と結びつく声
・聴衆にとって情報がちょうどよい声
安心できて、予測しやすく、感情とズレがなく、
自分の記憶や価値観と自然につながる声
つまり技術だけで決まるものではなく、
聞き手が安心でき、
無理なく受け取れるかどうかが
魅力的な声であるかを分ける。
この2つは混同されがちですが、
実は別物として考える必要があると
私は考えています。
だから人によって「魅力的な声」って
感じ方が違うし好みが分かれるですよね。
本当に面白い所。
③つまり「魅力的な声」は低音・高音に限らず出せるようになるの?
この2つの側面からのみ検討するのであれば
■倍音が多く含まれている声を指す場合
→ボイストレーニングを重ねれば可能
■人に好まれる、いいな!と
思ってもらえる声を指す場合
→聞き手の好みに左右されるため一概に言えない
という結論になります。
他にも「声はいいけど歌い方が・・・」とか
「歌唱力が」「表現力が」という風に
歌は”声だけ”で好まれるわけではないので
他の分野についても考える必要があります。
声に限っていえば
魅力的な倍音の多い声は人に好まれやすい
これは統計的にでているので事実ではあります。
適正音域は「存在する」が「固定ではない」
さて、「魅力的な声」について
2つの分野から考えてみましたが
次の質問。
魅力的な声を出せる適正音域は
決まっているのでしょうか?
という問いについて。
そもそも声というものは
人それぞれ異なります。
声紋と言って指紋と同じように
声の波形や特徴は同じ人間は
いないとも言われているほど
1人1人特徴があります。
これは声帯の厚さや長さ、体格、
骨格、呼吸の癖などによって異なるから。
そしてこの特徴からほとんどの人が
特に訓練をしなくても倍音が響きやすい音域
(適正音域)を持っています。
・低音が自然に深く響く人
・中音域が一番安定している人
これは才能の差ではなく、
単純に身体的な個性です。
そのため、
「低音のほうが魅力的に聞こえやすい」
という状態は決して珍しいことではありません。
高音で倍音がなりやすい人もいれば
中音で響く人もいる。
人によっては訓練をせずとも
すべての音域で倍音をならすことができる
これは才能というより個性であり
個体差による特徴でしかないのです。
魅力的な高音を出せるようにはなれないのか?
ではその特徴は一生覆せないのか。
高音が出ない人は訓練しても無理なのか。
答えは NO です。
ボイストレーニングでは、
・声を出すための筋肉の使い方
・声そのもののコントロール力
・声の支えを作る部分
・共鳴の調整
などを整えることで
発声可能な音域を広げ、
どの音域でも倍音を増やすことは理論上可能です。
専門家の元で必要な筋力を使う事で
自己流では不可能だった声を出せるようになる
それがトレーニングです。
勿論声帯条件によってある程度音域は
決まってくることもありますが
「絶対に無理」ということはありません。
(余談ですがホルモンバランスでも音域は変わりますしね)
ただし、魅力的な高音にするための
倍音が多く含まれている声を出すには
順番があります。
- まず無理なく出せるようになる
- 安定して出せるようになる
- その後、響きや表情が加わる
いきなり「魅力的な高音」を作ろうとすると、
力みや不安定さが生まれやすいのも事実です。
意外と高音を出せるようになった時点で
トレーニングに満足される方も多いですが
実は魅力的な声ってその先にあるものですよね。
私自身も「適正音域」に悩んだ一人でした
ここで少しだけ
私自身の話をします。
私も実は過去に悩んだことがあります。
「この高音域が綺麗だね」
「高い声はあなたらしい声だね」
と言われるゾーンがはっきりしていたんです。
一方で、低音はめちゃくちゃ苦手。
・低音の音域が狭い
・響きが薄くてスカスカ
・頑張っている感じが出てしまう
そんな音域がありました。
きっと高音に悩んでいる方は
私の低音の苦しみと同じだと
思っています。
正直
「喉の作りの問題で、適性がないから
低音は諦めないといけないんだ」
と思ったこともあります。
だから声に悩む人の気持ちは
痛いほど分かるのです。
「向いていない」の正体は、使い方だった
私自身のボイストレーニングを続け
知識をアップデートしていく中で
分かってきたことがあります。
それは私の声帯の限界ではなかったこと
その音域の適性が私にないわけではなく
その音域での喉(声)の使い方を
知らなかっただけだということ。
声の出し方も、筋肉の使い方も
フィーリングで先生の真似をしながら
言われた声質を自分なりに追い求めていたけど
それは正しくアクションできているわけではなく
ポジションも正しくなかった。
声帯閉鎖、息の使い方、
各筋力の支え、共鳴のポイント。
それらが整ってきたお陰で
A3くらいで厳しくなっていた低音も
E3までは楽に出せるようになってきています。
倍音も乗って豊かな声がでるようになっています。
私の体験で伝えるのであれば
「出せる」だけだった低音が、
「無理なく響く低音」に変わっていく。
生徒さんの話でいくならば
「出せる」だけの高音が
「無理なく響く高音」へ
変えていくことは可能なんですよね。
倍音が多い魅力的な高音を出せるようになる。
だから私は「可能性は広がる」と考える
最初から響きやすい音域があるのは事実です。
でもそれは、スタート地点の違いであって、
ゴールを決めるものではありません。
訓練を重ねることで
適正音域は確実に広がるし
自分の声の可能性だって広がる。
ただし、その声を
「魅力的」と感じるかどうかは、
最終的には聞き手に委ねられる部分もあります。
万人に好かれる声は存在しません。
人の数だけ好き嫌いはある。
だからこそ大切なのは、
自分の声を信じること
たゆまず努力を重ねて
自分の声を伸ばしていく事。
それが、
ボイストレーニングの本質だと
私は考えています。
魅力的な声、
どんどん磨いていきましょう!
なお、ボイストレーニングは
「正解の声を当てはめる」ものではなく、
自分の声を理解して育てていく作業だと
私は考えています。
今の声の状態を知りたい方、
これからどんな可能性があるのか整理したい方は、
ぜひレッスンで声を聴かせてください。
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